ベントレー初のEV
トルカルの全貌
2026年9月23日、英国クルーで世界初公開。888PS、航続約600km、10→80%充電16分。そして空力より伝統美を選んだ、逆張りのデザイン。
※本記事の情報は2026年9月24日時点のものです。価格・日本導入時期は未発表です。
ベントレーが初のピュアEV「トルカル(Torcal)」を公開しました。コンチネンタルGT、フライングスパー、ベンテイガに続く第4のモデルラインです。発表は2026年9月23日19時19分(英国時間)。公式に出た数字と、まだ出ていない数字を分けて整理します。
車名の由来がうまい
トルカルという名前は、スペイン・アンダルシア地方の石灰岩地帯「エル・トルカル・デ・アンテケーラ」に由来します。数百万年かけて自然が削り出した、積み重なった岩と断崖と迷路の荒野です。
ベントレーの公式説明で面白いのは、ここから先です。「Torcalという語は、torque(トルク)と語源を共有する。岩を形作った風の捻れを指している」。地名であり、同時に電動パワートレインの特性そのものを指す名前になっています。
スペック:2グレード構成
デュアルモーター(フロント・リア)の4輪駆動。標準の「コア」と、スポーティな「S」の2本立てです。
| 項目 | コア | S |
|---|---|---|
| 最高出力 | 821PS | 888PS |
| 最大トルク | 1,194Nm | 1,350Nm |
| 0-100km/h加速 | 3.4秒 | 2.9秒 |
| 最高速度 | 250km/h | 260km/h |
全長約5mのラグジュアリーSUVで0-100km/h 2.9秒。なお車重は公式に発表されていないため、ここでは推測していません。
バッテリーと充電:16分の意味
バッテリーはネット容量113kWh、公称800V。リチウムイオンのポーチセルを192個搭載します。航続距離はWLTPモードで最大約600km。保証は約16万kmまたは10年間です。
実用上いちばん効くのは充電性能でしょう。400kWの急速充電に対応し、10→80%が16分。約7分で160km走行分を確保できます。
400kW充電に対応していても、その出力を出せる充電器が近くになければ意味がありません。日本の高速道路SA/PAに設置されている急速充電器は、現時点で出力がこれより低い設備が大半です。
カタログ上の16分は「充電器側が400kWを出せた場合」の数字として読むのが正確です。輸入EVを検討するとき、車両側の対応出力と、自分の生活圏にある充電器の出力を別々に確認する必要があります。
シャシー:ベントレー初のフルアクティブサスペンション
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| サスペンション | フルアクティブ・サスペンション(ベントレー初採用)、2バルブ式アダプティブダンパー |
| ステアリング | 電子制御式オールホイールステアリング(リア最大5度) |
| 最小回転直径 | 11.1m |
| ブレーキ | 420/370mmスチール、またはCSiCセラミック440/410mm |
| ラゲッジ | 460L(+フロントストレージ90L) |
全長約5mのSUVで最小回転直径11.1mは、後輪操舵の効果がはっきり出ている数字です。取り回しの負担はサイズの印象より軽いはずです。
空力より伝統美を選んだ
EVのデザインは通常、航続距離を伸ばすために空力最優先で決まります。トルカルはそこで逆を行きました。
フロントには「フローティング・ダイヤモンド・グリル」。ダイヤモンド状のLEDを埋め込んだグリルですが、EVなので冷却用の開口は要りません。透明カバー付きのダミーグリルとして空気抵抗に配慮しつつ、ベントレーらしい顔を残しています。フロントからリアまで伸びる「エンドレス・ボンネット」、立ち上がったフロントパネルの「アップライト・エレガンス」、リアの「プレスティージャス・シールド」。
デザイン責任者のT.ジョン・メイヤー氏は、狙いをこう語っています。「EVである前に、まずベントレーであることが大切」。電動化でパワートレインが変わっても、素材の上質さ、指先に伝わる手応え、乗員を包む居心地は変えない、と。
内装:世界初の100%メリノウール
レザーは15色のオリーブタンを手縫いで仕立てます。注目は素材で、自動車用ファブリックとして世界初の100%メリノウール(RWS認証取得)を採用。サマセット州のフォックス・ブラザーズが供給します。ウッドヴェニアは6種類から選択。
シートは16ウェイ調整、ヒーター、ベンチレーション、リラクゼーション機能付き。装備面では、ARヘッドアップディスプレイ、曲面OLEDスクリーン、顔認証、モバイルデバイスキー、レーダー制御のパワードドア4基。ADASはレーダー・センサー・カメラを計25基。ルーフはフロステッド・ダイヤモンド調光ガラス。
オーディオは標準で620W・16スピーカー、Naim共同開発の上級システムが1,780W・28スピーカーにDolby Atmos 7.1。加えて、AIが生成する走行音「ベントレー・ダイナミック・シンフォニー」を搭載します。
生産:クルーに730億円
生産は英国クルーの本社工場。1938年建設の歴史ある建屋を改修し、専用ラインを新設しました。投資額は3億5,000万ポンド。組立は手作業です。生産開始は2026年9月17日で、世界初公開の6日前から動いていたことになります。
まだ発表されていないこと
ここは正直に書きます。現時点で未発表の項目があります。
| 項目 | 状況 |
|---|---|
| 本国価格 | 未発表 |
| 日本価格 | 未発表 |
| 日本での受注開始・納車時期 | 未発表 |
| 生産台数 | 未発表 |
| 日本導入の有無 | 日本語プレスリリースと日本向けモデルページが公開済み |
英国で約17万ポンドからという数字が一部で報じられていますが、報じている媒体自身が「予想」と明記しています。公式発表ではありません。日本価格として出回っている金額も、為替で単純換算した参考値です。
世界初公開の前には「最大充電出力390kW・航続480km以上」といった数字が流れていました。公式発表は400kW・約600kmです。発表前の予想値を引用した記事がこれからも出てくるはずなので、数字を見たら公式発表前後のどちらのものかを確かめてください。
なお、ボディサイズを全長4,983mm・全幅2,016mm・全高1,674mm(ベンテイガより161mm短く50mm低い)とする報道や、プラットフォームがポルシェと共通とする報道もありますが、これらは公式プレスリリースには記載がありません。本記事では報道値として区別しています。
なぜ今なのか——高級EVの逆風のなかでの登場
スペックの話から離れて、タイミングの話をします。
ベントレーは2024年11月、戦略計画「Beyond100+」を発表し、ブランド全体の完全EV化の目標を2030年から2035年へ5年後ろ倒ししました。理由として挙げられているのは「現在の経済状況、市場、立法環境に適応する」こと。あわせてPHEVのライフサイクルを延長し、W12エンジンの生産終了後はウルトラ パフォーマンス ハイブリッドに統一する方針を示しています。
つまりトルカルは、「全部EVにする」という計画を一度引っ込めた会社が出す、最初のEVです。
高級EVの代表格に何が起きたか
同じ時期、ポルシェ・タイカンの販売台数はこう推移しています。
| 年 | タイカン販売台数 | 前年比 |
|---|---|---|
| 2023年 | 40,629台 | — |
| 2024年 | 20,836台 | −49% |
| 2025年 | 16,339台 | −22% |
| 2026年上半期 | 6,219台 | −25%(前年同期比) |
ピークの2023年から、3年で6割以上減った計算になります。ドイツの経済誌はポルシェ経営陣がタイカンの生産を2030年までに終了する方向で基本合意したと報じていますが、ポルシェは正式に認めておらず、確定情報ではありません。
対照的な数字もあります。同じ2026年上半期、内燃機関の911は前年同期比19%増でした。高級車の市場そのものが冷えたのではなく、動きの方向が分かれているということです。
この状況にトルカルが投入されます。技術的には800V・400kW対応と後発の利点が効いていますが、市場としては明確な向かい風です。
音のない高級車は、価値を保てるのか
ここからは運営者としての見立てです。
いまリセールが強い車を並べてみると、共通項が見えてきます。JDMの人気車、生産台数が絞られた希少モデル、クラシカルなSUV。そしてもうひとつ、サウンドが唯一無二な車種です。981型ボクスターGTSやスパイダー、フェラーリ458、レクサスLC。自然吸気で、そのエンジンでしか出ない音を持つ世代が、値を保っています。
この見立てには裏づけがあります。458イタリアの中古相場は過去5年ほど右肩上がりで、国内の流通はわずか33台前後、価格帯は2,000万円台から3,400万円超。理由として挙げられるのが、フェラーリ最後の自然吸気V8であること、フラットプレーンクランク特有のエキゾーストノート、そして生産終了から時間が経って球数が減っていることです。
「EVの時代になったから内燃機関車が高くなった」と説明されることがありますが、順序が逆です。458の上昇は5年以上前から続いており、各社がEVを発表するより前に始まっています。動いているのは、生産終了後に球数が減っていく旧車特有のサイクルと、自然吸気という仕様の希少性です。
EVの登場が加えたのは、値動きではなく「最後の内燃機関モデル」という言葉の分かりやすさでしょう。すでに起きていた現象に、後から名前が付いたという順番です。
いずれにせよ、ベントレーがこの領域に出した答えがAI生成の「ベントレー・ダイナミック・シンフォニー」です。音を電子的に作ることが、W12やV8が持っていた価値の代わりになるのか。それは市場が決めることになります。
ひとつ正直に付け加えておくと、この「音の価値」は万能ではありません。筆者自身が乗っているジャガーFタイプは、V8の音という点では誰もが認めるものを持っていますが、リセールが強いかというとそうではない。音だけで決まるわけではなく、希少性、ブランド、球数、維持費の読みやすさが揃って初めて値が残るのだと思います。
トルカルが10年後にどう評価されているかは、まだ誰にも分かりません。ただ「初のBEV」「第4のモデルライン」という肩書きは、希少性の側の条件を満たしているとは言えます。
ただ、輸入車の価値が何年でどう動くかは、もっと現実的な価格帯でも同じ構造で起きます。ベンツ・BMW・アウディのリセールが悪い理由は、そのまま高級EVにも当てはまる可能性があります。
まとめ
トルカルは、ベントレーが電動化に出した答えとして分かりやすい車です。821PS/888PS、航続約600km、10→80%充電16分という性能面は、現行の高級EVとして過不足のない水準にあります。
特徴が出ているのはむしろ設計思想のほうです。空力を最優先せず、ダミーグリルを残し、AIで走行音を作り、手縫いのレザーと世界初のメリノウールを使う。「EVである前に、まずベントレーであること」という言葉のとおりの作りになっています。
価格と日本導入時期が出るのはこれからです。続報が入り次第、この記事を更新します。
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- ベントレー モーターズ ジャパン公式プレスリリース「ベントレー第4のモデル『トルカル』登場」https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000300.000082456.html
- ベントレー モーターズ ジャパン公式プレスリリース「英国クルーから生まれる、新たなベントレー」https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000299.000082456.html
- Bentley Motors 公式「モデル名 トルカル」https://www.bentleymotors.com/en/bentley-culture/torcal/name-reveal.html
- ENGINE WEB「【現地取材・後編】ベントレー『トルカル』のデザイン責任者が語る」https://engineweb.jp/article/detail/3354412
- LE VOLANT WEB「【世界初公開】ベントレー初のピュアEV『トルカル』誕生」https://levolant.jp/2026/09/24/455322/
- ベントレー モーターズ ジャパン「2035年までの『Beyond100+』戦略計画を発表」https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000215.000082456.html
- 財経新聞「ポルシェ初の量産EV『タイカン』に生産終了報道―販売減とモデル再編の行方」https://www.zaikei.co.jp/article/20260815/865954.html
- Life in the FAST LANE.「【最後の自然吸気V8】フェラーリ458イタリアの価値が今『急上昇』」https://intensive911.com/italian-car-brand/ferrari/347513
- AUTOCAR JAPAN「ベントレー初のEV、車名は『トルカル』に決定」https://www.autocar.jp/post/1258432
10年以上にわたり中古車の購入・乗り換えを繰り返してきた実体験派。カーショーや展示会巡りも趣味で、車への関心は尽きない。専門用語に頼らず、クルマに詳しくない方にも伝わるやさしい言葉で情報を発信することをモットーにしている。全国の販売店ネットワークを活用した中古車マッチングサービス「AUTOMATCH」を運営中。






