私が愛する、ジャガー Fタイプという車。
スペックより先に、音で選ぶ車がある。エンジンをかけた瞬間から、もうその車の虜になっている。Fタイプは、そういう車だ。
Fタイプとの出会い
正直に言うと、最初はジャガーというブランドにそこまで興味がなかった。英国車は壊れる、維持費が高い、リセールが悪い——そういうイメージが先行していた。
でも一度、Fタイプのエンジン音を聴いてしまった。それで全部変わった。
コールドスタートの重低音。走り出してからのサウンドの変化。アクセルを踏み込んだときの咆哮。あの音は、頭より先に体が反応する種類のものだ。スペック表を見る前に、もうその車が好きになっていた。
Fタイプの排気音について
V8スーパーチャージドエンジンの音は、他の何とも似ていない。「ドロドロ」という表現が近いかもしれないが、それだけでは足りない。低回転では重厚で落ち着いていて、回転を上げるにつれて鋭く、威圧的になっていく。アクセルオフのときに鳴るバックファイアの音まで含めて、全部が演出になっている。
2.0L直4のP300でも、排気音のチューニングは本物だ。「4気筒だから」という先入観で聴くと、想像より遥かに良い音が出る。ただ、V8を一度聴いてしまうと、引き返せなくなる。これは正直に言っておきたい。
コンバーチブルで屋根を開けて走ると、音の届き方が全部変わる。風切り音の中に混じって聞こえる排気音は、走ることへの解像度を上げてくれる感覚がある。
スペック——3つのエンジンと、世代による変化
Fタイプのエンジンは12年の生産期間中に変化した。登場時は3.0L V6と5.0L V8の2本立て。2017年のマイナーチェンジで2.0L 直4が追加され、2020年の後期モデルでV6が廃止された。中古で選ぶ場合は「いつの年式か」でラインナップが変わる。
300ps / 400Nm
0-100km/h:5.7秒
最高速:250km/h
駆動:FR
2017年の中期モデルから追加。「4気筒のFタイプ」と批判的に語られることもあるが、エキゾーストサウンドのチューニングは本物で、日常使いのコストと音のバランスが一番現実的。
340ps or 380ps
最大トルク:450Nm
0-100km/h:4.8〜5.1秒
駆動:FR / AWD(380psはMT設定あり)
V8の轟音とは一線を画す、高回転域の甲高い音が特徴。回しやすいパワー特性で、V8より扱いやすく乗りやすい。「V8は凄すぎて疲れる、V6がちょうどいい」という声も多い。前期〜後期マイチェン後まで設定され、最終「75」グレードになって廃止された。
450ps(P450)or 575ps(P575)
最大トルク:580〜700Nm
0-100km/h:3.7〜4.6秒
駆動:FR / AWD
これがFタイプの本音。V8を一度聴いたら引き返せない。特に前期の「V8 S(495ps)」はアクティブエキゾースト標準装備で、歴代Fタイプ最大音量とも言われる。
前期・中期・後期——デザインと音の変遷
Fタイプは大きく3世代に分かれる。中古を選ぶときに年式を見る前に、この世代の違いを知っておくと判断しやすい。
前期・中期・後期——デザインと音の変遷
Fタイプは大きく3世代に分かれる。中古を選ぶときに年式を見る前に、この世代の違いを知っておくと判断しやすい。
前期(2013〜2017年)——最も生々しいFタイプ
初代Fタイプ。コンバーチブルが2013年、クーペが2014年に登場。エンジンはV6(340ps・380ps)とV8(495ps)の2本立て。フロントは丸みを帯びた有機的なフェイスで、Eタイプへのオマージュが強く感じられるデザインだ。テールランプは丸型で、全体的に柔らかい曲線で構成されている。
音量・音質は歴代最強とも言われる。特に「V8 S(495ps)」はアクティブエキゾーストを標準装備しており、コールドスタート・バックファイア・アクセルオンの全てにおいて最も野性的だとされる。V6はV8より音量は控えめだが、3.0L V6らしい高回転域の甲高さが心地よく、前期V6 Sを愛する人は今も多い。
中期(2017〜2019年)——2L直4追加、デザイン変更は軽微
2017年9月の2018年モデル発表から。変更の主な内容は2.0L直4ターボ(300ps)の追加とラインナップの拡充。デザインの大きな変更はなく、LEDヘッドライトへの切り替えなど細部のアップデートにとどまった。「前期と中期は顔が変わっていない」という印象を持つオーナーが多いのはこのためだ。
V6(340ps・380ps)とV8はそのまま継続。2018年モデル限定の「400スポーツ」(400ps V6)も設定された。音のキャラクターは前期と大きく変わらない。
後期(2020年〜)——ここで大きくデザインが変わった
2020年1月のマイナーチェンジで外観が大きく刷新された。ヘッドライトが縦向きから横向きに変わり、テールランプが丸型から四角くなった。全体的にシャープで細い印象になり、フロントフェイスが現代的に整理された。内装も12.3インチのデジタルメーターを採用し、より近代的な雰囲気に。「前期の顔が好き」「後期の顔が好き」でオーナーが真っ二つに分かれる変更だ。
重要なのは、後期でもV6(340ps・380ps)は継続されていた点。R-ダイナミックシリーズでV6 AWDなどが設定されており、V6ファンはこの後期モデルを選ぶことができる。最終の「75」「ZP」グレードになって初めてV6が整理され、2.0L直4とV8(P450・P575)のみの構成になった。
音の派手さを求めるなら前期V8 S(2013〜2016年)。V6の回しやすさと高音を楽しみたいなら前期〜後期のV6モデル。デザインのシャープさと近代的な内装を求めるなら2020年以降の後期。中古相場は前期V6が400万円前後〜、後期V6 AWDが600万円前後〜が目安だ。
クーペとコンバーチブル——どちらを選ぶか
Fタイプにはクーペとコンバーチブルの2ボディがある。どちらを選ぶかは、「何のためにFタイプに乗るのか」という問いへの答えになる。
クーペ——フォルムの完成度が高い
クーペのシルエットはEタイプの系譜を感じさせる美しさがある。ルーフラインからテールにかけての流れが、止まっているだけで絵になる。屋根が固定されている分、ボディ剛性が高くシャープな走りが楽しめる。音はコンバーチブルより少し「遠く」聞こえる。
コンバーチブル——音と風を直接受ける体験
ルーフを開けた瞬間から別の乗り物になる。エンジン音・排気音・風の音・周囲の音が直接届く。夜の阪神高速を走ると、音と光と速度感が全部混ざって「走ることが目的になっている」感覚になる。Fタイプのサウンドを最大限に楽しみたいなら、コンバーチブルだと思っている。
| 項目 | クーペ | コンバーチブル |
|---|---|---|
| 全長 | 4,470mm | 4,470mm |
| 全幅 | 1,925mm | 1,925mm |
| 全高 | 1,315mm | 1,320mm |
| 車重 | 1,670kg〜 | 1,720kg〜 |
| ルーフ | 固定(アルミ) | 電動ソフトトップ |
| 音の体感 | 抑制されて上品 | 直接・生々しい |
生産終了という現実
2025年、Fタイプは生産を終了した。
ジャガーは電動化への転換を進めており、Fタイプ・XE・XF・XFスポーツブレイクの4車種が内燃機関モデルとして生産終了となった。最終モデルとなった「ZPエディション」は世界限定150台で、日本にはクーペのみ12台が導入された。
ジャガーがEVブランドへの転換を宣言している以上、あの排気音を持つジャガーのスポーツカーは今後生まれない可能性が高い。Fタイプを手に入れることは、単に一台のスポーツカーを買うことではなく、ジャガーが内燃機関で作り上げた最後の音を手に入れることだ。
中古市場の現状
生産終了が確定したことで、中古市場での関心は高まっている。2026年5月時点でのグーネットの中古流通台数は約54台。価格帯は244万円〜1,780万円と幅広く、年式・グレード・走行距離によって大きく変わる。
V8エンジン搭載モデルは排気量5,000ccのため自動車税が年間88,000円(環境負荷が高い場合は増額の可能性あり)と高い。英国車の特性上、維持費・修理費のリスクも念頭に置く必要がある。それでも選ぶ価値があるかどうかは、あの音を一度聴いてから判断してほしいと思っている。
ジャガー正規ディーラーのアプルーブドカー(認定中古)であれば、整備履歴・保証が確認できる。英国車は部品調達に時間がかかるケースがあるため、ディーラーとの関係を維持できる環境かどうかも判断材料になる。
Fタイプという車の本質
この車は、数字で語るより、音で語るべき車だと思っている。
スペックを見れば似たような競合はある。ポルシェ718・BMW Z4・アストンマーティンDB11。でもFタイプの音は、他の何とも違う。英国のメーカーが長年かけて積み上げてきた、エンジンサウンドへの執着が詰まっている。
生産が終わった今、この音を持つ新品のジャガースポーツカーは二度と作られないかもしれない。それがFタイプの価値をさらに高めている。
エンジンをかけた瞬間に、乗る理由が全部分かる。そういう車だ。
「V8モデルで程度の良いものを探している」
「コンバーチブルで予算内のものを見つけたい」
希望条件を登録しておくと、条件に合った車両をご提案します。
※本記事の価格・スペックは2026年5月時点の情報です。中古車市場の価格は需給により変動します。



